Fluid Dynamics in Earth and Planetary Sciences (FDEPS)  First FDEPS Workshop  Dec 6 - 10, 1999  Graduate School of Mathematical Sciences, University of Tokyo


講演
高解像度気象モデルとダイナミクス
岩崎俊樹(東北大学)

要旨

  1. 高解像度気象モデルの目的

     大気は圧縮性流体でありその運動はナビエストークスの方程式に従う。しかし、気象現象は2つの意味で特殊である。第1に大気は異方性(2次元性)が強い成層回転流体であり、第2に放射、水の相転移、地表面相互作用などの非断熱過程(物理過程)によって駆動されていることである。

     気象の数値シミュレーションモデル(以下数値モデルと呼ぶ)は通常2次元性を考慮して鉛直解像度に比べ水平解像度は極端に粗い。このため、水平方向については「微小な気象現象の統計的平衡」を仮定することによって、力学フレームを簡略化し物理過程をパラメータ化してきた。非断熱過程に関しては熱力学平衡だけでなくスケールの小さな循環の影響を含めてパラメータ化しなければならない。ただし、統計的平衡の仮定はモデルの解像度の限界のためにやむを得ず導入しているのであり、空間スケールの明確な分離に基づいているわけではない。「気象現象の統計的平衡」の曖昧さが、数値モデルの大きな制約となっている。

     高解像度モデルの目的は、曖昧な統計的平衡の仮定を一つ一つ除き基本的な物理法則に近い記述方法を採用するとともに、あらゆる現象を一元的に表現することによって、スケールの異なる現象間の相互作用を理解する(予測する)ことである。

  2. 数値モデルの解像度と現象の表現力

    1. 大規模環境→微小気象現象

       数値モデルは一般に波長が格子間隔の数倍〜10程度の現象まで表現可能である。気象現象ではそれぞれに特徴的なスケールを持っている。例えば、現在の気象庁全球モデルの水平格子間隔はおよそ50kmであるので、台風あたりまで(眼形の微細構造は除く)予測可能である。1km程度になれば山岳波や積雲対流も表現できる。また、鉛直解像度を増やせば内部重力波の砕波の様子も見えるかもしれない。解像度を増やすことによって、大規模場の中の微小現象の動態を明らかにできる。

    2. 大規模環境←微小気象現象

       更に興味深いのは大規模場への影響である。気象現象はスケールの異なる現象間の相互作用が無視できない。すなわち、小さなスケールの現象が集団として大規模現象へ影響を及ぼす。これは、数値モデルが表現できない場合はパラメータ化(次節を参照)する必要があるが、その根拠は曖昧な場合が多い。パラメータ化せずに直接表現することによって、精度の高いシミュレーションを実現する。パラメータ化を局所熱力学平衡に関連する現象に限定することによって、曖昧さを排除し精度の向上を図ることが高解像度モデルの基本的戦略である。当日は、(i) 重力波抵抗 (ii) 積雲対流 (iii)乱流と地表面相互作用、などの問題を議論する。

  3. 数値モデル開発

     解像度を増やす場合には数値モデル自身の最適化も必要である。

    1. 力学フレーム

       気象の数値モデルでは数値計算の安定性と経済性のために、地球大気の特殊性を利用した特殊な力学フレームを採用してきた。しかし、力学フレームは解像度を増やすに従い特殊な表現を排し一般的な表現を導入する必要がある。準地衡風モデルで幕をあけた気象の数値シミュレーションは、現在はプリミティブ方程式(水平方向はナビエストークスだが鉛直は静力学平衡を仮定)が主流であるが、3次元等方的な完全圧縮系の非静力学モデルへと向かう。また、技術的には計算機に適合したアルゴリズム開発が大変重要である。

    2. 物理過程のパラメータ化

       すでに述べたように、高解像度モデルの基本的戦略はパラメータ化から「統計平衡」の仮定を減らし「熱力学平衡」の仮定に近付けることである。しかしながら、解像度が十分でない数値モデルで、統計的平衡の仮定をはずせば、特定のスケールの現象の影響を表現しないことになる。解像度と現象の表現力の関係を良く考える必要がある。


FDEPS スタッフ fdeps(at)gfd-dennou.org
1999/11/15 更新 (by 林 祥介)